雨の日の日曜日の午後、小腹の空いた私は、自分のお小遣いでかったラーメンを食べていた。
それは名店シリーズの一つで、そっと買って食べるのを楽しみにしていたのである。
食べ始めるとすぐに、右手斜め前方から強い気の気配、
というか気配を超越した物理的な圧力にまで高まったジリジリと焼け付くような熱気、があった。
誰がこの熱烈な人肌を焦がすような視線を私に投げかけているかは、確かめなくても分かっていた。
次女の席からの方角であるし、彼女は食べることと、お笑いには目がない。
ウチの次女はゴマジョーと呼ばれている。
11才の少女であるが、どうも漂う雰囲気が高利貸しとか、右翼とか、総会屋とか、
お猿の大魔王という感じなのである。
私は人間の視線がこれほどまでの圧力を生むという事実に、驚きながも食べつづけた。
1度書いたがこれは私の小遣いで購入したモノであり、娘といえど分け与えるいわれはない。
しかしその視線の圧力に、正直ビビってもいた。
これなら西武鉄道の株主総会でも仕切れそうな迫力である。
ふっと、娘は立ち上がると、私の隣で生協への注文表に記入している妻の背中に取り付いてきた。
「あら、珍しい。どうしたのごまちゃん」
「甘えにきた」
「コラ、大きくなっても甘えん坊だな、ごまは」
私は妻と娘の会話を聞きながら、慄然としていた。
娘は絶対に甘えにきたのではない。
熱気を孕んだ視線は、今隣からきている。
私のラーメンが目当てなのである。
妻の背中でふざけながら、娘は私のドンブリから目を離さない。
見ていた分けではい。
見なくても分かるくらいの、体が押されてしまうような気迫なのである。
私は負けを認めた。ラーメン1杯で寿命を縮めたくない。
「ごま、らーめん欲しいのか」
「うん、ちょっとね」
この瞬間、私の体を圧倒していた気の圧力がなくなった。
呼吸が楽になり、体が軽くなったようだ。
「パパが食べてるのよ、ダメよ、ごまちゃん」
「わかってるよー」
再び私の体を押しつぶすような圧力が蘇った。
私は諦めた。
「いいよ、ごまちゃん食べなさい」
娘は私の退いた椅子に座ると、スープまで全部飲んだ。
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