日本のミステリー

December 10, 2014

満願 米澤穗信@真の傑作短編もあるが、ミステリへの重大は問いも考えられる1冊

10年前!このブログを始めた当時、最も好きな趣味は何かと問われたら「ミステリーを読むこと」と答えた私ですが、昨今はすっかりお見限り・・・
あの当時、年に一番の楽しみは12月に出る「このミス」を読むことだったんだから、ささやかなモノでしたが、ともかく好きだったんだよね。
で、今年「このミス」と文春の二冠に輝いたのがこの短編集。
作家の名前、はてどっかで聞いたような、と思ったらアニメ氷菓の原作者でした・・・ミステリを読まなくなったのも信じられないでしょうけど、オマエは10年後、アニメに夢中って言われても信じなかったろうなあ・・・ホント、人生は計り難しですね。

まあ二冠だし氷菓の作者だしということで、購入ですが、一つ一つ語ると
「夜警」
納得の佳品ですが、この手は横山秀夫が凄いの書いているんで、未だその記憶が拭えず。
でもこの水準なら年間一位もおかしくないという作品です。
「死人宿」
氷菓もそうだったのですが、品位のある抒情を描かせると一級の米澤さんですが、これは少し寂寞とし過ぎて、膨らんだ期待を満たしているとは言い難い。
「柘榴」
ホラー小説として真の傑作です。
これがホラーというと戸惑う方いるかもしれませんが、血しぶきが上がってゾンビが走り回ればホラーってわけじゃないんです。
この作品は、捻りのある構造が妖美なるエロティシズムを際立たせ、底知れない魔性の息吹が一時期の小池真理子を思わせる逸品で、感嘆しました。
「万灯」
いきなり物語の結論が示されているので、オチを楽しみたい私にはシラケたスタートでしたが、日常系だと思った舞台がバングラデシュ。
その上、臨場感が半端でなく夢中で読み進まされ、終盤はお見事!としか言いようがない着地!
アレもコレもみんな伏線だったのね、という虚淵玄が「まどかマギカ」でやってのけた微細構造に至るまで仕掛けは万全!を思い起こさせる傑作でした。
「関守」
レビューで世にも奇妙な系と評されてますが、その通り。
水準以上ではありますが、私はこの手を中学時代から延々と延々と延々と読んできているんで、まあまあという氷菓(笑)です。
「満願」
題名の作品ですが、一番ピンとはこなかった。
ただ文章が巧いので読んでしまいますね。

【ミステリーへの重い問いかけ】
ミステリーは読まなくなっても文学は読んでいるんです(最近では太宰、安吾、カフカetc)専門書も読んでいる。
なんで文学や専門書は廃れないかというと、そこにしかない世界があるからです。
ミステリーは結局、エンターテイメントでしょう。
そうすると今は他のライバルが強力過ぎるんです。
たとえばアニメだ。
まどかマギカのBDは5000円で買える。
プリズマ☆イリヤも6000円で買えるんです。
で、何回観れらるかというと・・・数えきれない。
正確には観るというよりPC仕事の傍らで掛けているだけなんだけど、バックグランドミュージックみたいに使えて充分元は取れるんだよね。
昨日一昨日と安室奈美恵20周年ドームツアーのBDを観たんだけど、コッチは3700円から5700円で買えるんです。
もう何回観たろう・・・そして感動しただろうか・・・今日クルマの中でもCDを落としたヤツ聞いていたからもう元を取るなんてもんじゃない。
この単行本は1728円です。
非常に高水準の作品ですから高いとは言えませんが一度読んだら終わりなのも確かなんだよね。
アニメと違って単調な仕事中、傍らで掛けておくって使い方も出来ない。
安室のライブみたいに、何度見ても感動で泣けてくるという力もない。

文学方面は青空文庫でiphoneに落とせるのが強みなんです。
iphoneにあるとトイレとか待ち時間の隙間隙間に読めるのが強い。
やっぱりこれからは電子化して、利便性と割安感を出さないと、ミステリ界もじり貧では、とも感じますね。
キンドルがあるのは知ってますが、割高感があるのがね。
「その女アレックス」も買いましたけど、そんな事も考えましたよ。

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October 09, 2013

AnotherエピソードS 綾辻行人@名探偵、見崎鳴登場! 小説もオモシロイな

綾辻行人が日本ミステリー界の大御所である、ということは分かっている。
ただ何冊読んでもそれほど感動した、という作品がないのだ。
何を読んでも、まあ、良く出来ている、という感じだったので、アニメAnotherが放映される時も、原作はあの綾辻行人と連呼されてもどうもね。
それでも観てみたら実に雰囲気のあるアニメで、特にヒロインの見崎鳴ちゃんはムードがあって良かった。
清原紘の絵が実に美しいコミックスも購入したのだが、結局、小説版のAnotherはついに手を付けず。
今回は見崎鳴の過ごした空白の1週間が語られるという事で、これがアニメだったら何を置いても飛びつくんだけど、綾辻さんの小説しかないので迷った。
結局、手に取って読んだのだが、非常にオモシロかったです。

見崎鳴が出て来て語りだすと、あのアニメの声とビジュアルが蘇って来て、この辺はメディアミックスの効果絶大であって、もう文句なしの魅力でしたね。
ストーリーもずっと神秘的な雰囲気を失わずに、成功していたと思う。
見崎鳴は、終盤、軽くシャーロック・ホームズばりの活躍で、読んでいるうちにアニメ「氷菓」の二番目のED曲、「君にまつわるミステリー」(←この解説はマニアック過ぎたか)みたいなコスプレをさせたかったです(笑
アニメやコミックスだけで小説を読まなかったAnotherファンにもおススメ。

ps
最後の最後に、一所懸命、ストーリーの整合性を説明する部分があるんだけど、どうも私が新本格派に馴染めないのはこのくどさのせいなんだよね。
こういう部分を非常に良く考えてある、と受け取る人は新本格派の大ファンに。
フィクションなんだから、勢いさえあれば整合性なんて二の次だよ、と思う私はあまり熱心になれない、ということだろう。

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September 03, 2013

絶望ノート 歌野晶午@キレよりパワーボム連発ってタイプ

その切れ味はまさに剣豪の一閃、とも感じられた「葉桜の季節に君を想うといこと」
あまりにも鮮やかだったので、読後、なんであれほど見事に引っ掛けられたのか、と考えたのですが、結局、表で走っているストーリーが巧いのだ。
軽ハードボイルドとして1級で、読んでいてちょっと変だな、とアンテナに掛かる処があれど、話の勢いに呑まれてついつい先に行ってしまう。
で、最後の最後にスッパとやられたわけですね。

この本はそんな歌野晶午さんの小説ですから、特に注意しながら読みました。
絶対に裏があるはずで、今後という今度は見ぬいてやる、という気持ちで読み進むと、まもなく、あれ、という箇所にぶつかる・・・
そこでこの手だろう、と当りを付けたのですが、結果、正解でした。
ただ、その裏の事情の実現は非常に手が込んだもので、その一筋縄ではいかなかった処ことこそ歌野さんが訴えたかったことなんでしょうが、長くなる分、キレという点では「葉桜」には及ばなかったですね。

さらにメインとなるストーリーがイジメと怨念。
復讐の神の力は実在するのか、という話なんで、ともかく暗い。
それじゃ結局、ツマラナカッタのか、読んで後悔か、というと、そんなことはなく、読書中は手が止まらず。
今回も表で走るストーリーを読ませる力は素晴らしく、エンターテイメント作家としての評価はさらに安定したモノとなりました。

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April 06, 2013

ドグラ・マグラ 夢野久作@読み切るのはホント大変な1作

日本探偵小説の三大奇書だそうですが、後の二つは小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」と中井英夫の「虚無への供物」だそうです。
私は全部読んでますが、まず「虚無への供物」は極めて良く出来たミステリーで、抒情の豊潤なること、横溢するムードの華麗なること、こんな作品が60年近く前に描かれていたなんて、今のミステリー作家たちの顔色なし、という出来で、奇書とかの問題でなく素晴らしい小説です。

黒死館殺人事件は、その衒学趣味が過剰であり、本筋よりも薀蓄が勝り、長大なボリュームもあり、これは奇書だなあ、と納得できる作品で、私、この小説、沖縄に持っていって読んだのですが、家を出てから、空港までの道すがら、空港での待ち時間、飛行機に乗っている時、沖縄に付いてから、さらに出来たばかりのブセナテラスに泊まっている間、延々、泳げないので海にも入らず、プールにも入らず、マリンスポーツなどまったくせず、ひたすら読んで読んで読了したら軽く鬱が入っていたという、ね。
快適なホテルに泊まり好天に恵まれたビーチリゾートで、何不自由なく過ごしていてもすっかり暗い気分になったことから、確かに奇書だなあ、と思わされた1冊でした。

ではドグラ・マグラはどうかというと、以上、二作品と比べても圧倒的に変な作品です。
冒頭からしばらくは謎めいた設定が魅力的であり、時に非常に美しい情景描写もあって、楽しく読めるのですが、それから始まる論文やら映画中の描写ですね。
特にチャカポコ節の処は真面目に読んでいると結構キツイ。
ああ、もう勘弁してよ、という文章の連続で、読んでいて楽しい作品ではない。
著名なミステリーは全部読むというレーゾンデトールでも持っていない限り厳しいでしょうね。

まあ苦労した分、最後の最後で明かされる謎解きが、夢野久作ならではの、ある種、澄み渡った余韻が残るのが救いでしょうか。
三大奇書に挑戦したいという奇特な読者にはまずは「虚無への供物」そして「黒死館殺人事件」の方をおススメいたします。
これは最後でイイよ。
というか、最後の方がイイね。

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December 26, 2012

猫間地獄のわらべ歌 幡大介@趣向に溢れ、後味が楽しめるミステリー

どんな趣味でもそうなんでしょうが、ミステリーも読み続けて数十年を経ると、勘も働くようになる。
この本は、題名は変だし、著者は聞いたことがないし、私があんまり好きではない時代物設定でもある。
普段だったら触手の伸びない1冊でしたが、「このミス」の紹介を読んだ処、勘働きがあったので購入しました。

ただ読みだしたら退屈・・・なんで買っちゃったんだろうと後悔したんですが、出先に持っていったのが幸いした。
ホントは単行本持っていく予定だったんだけど、デカくってさ。

他に読む本がなかったし、私は何かしら読んでないといられないので、読み進めた処オモシロくなってきた。
登場人物に愛着を感じ始めて、さて第1章はどんなオトシになるんだろう、と思ったら新本格派への皮肉みたいな終わりになってしまった。
少しガッカリして第2章は舞台も登場人物も変わってまた没入のやり直しかと思ったら横溝正史みたいな見立て歌連続殺人事件が始まって、すんなり入って行けた。
オモシロイ、オモシロイと解決編まで読んだら第四章では「館物」が始まるという盛り沢山の展開。
そして第五章。
投げ出されたような第1章の解決編が始まるんですが、ホントの魅力はすべての事件が解決した後にあったということでした。
はいはい、事件解決、事件解決と読むのを止めないこと。

うん、すっかり分かってツラツラ読み直すとまた味わい深いですね。
シャンタラムを紹介してないのは大きな失点と思うけど、この作品とカラマーゾフの妹を教えてくれただけでも、今年の「このミス」には及第点を与えてイイかな・・・

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December 18, 2012

カラマーゾフの妹 高野史郎緒@金字塔の続編として世界に発表すべき

人類の生み出した最も偉大なる精神遺産として燦然と輝くカラマーゾフの兄弟(別名:フョードル・カラマーゾフ殺人事件)の解決編を書いてしまえという気宇壮大、野心に満ちた1作ですが、非常に良く書けています。
この作品によって、なんだかすっきりしないまま終わったあの文学史上最も有名な殺人事件の真相が明らかになりました(笑
ここは世界のカラマーゾフファンに向けて翻訳を急いだ方が良いでしょう。

読む前に気になったのは、まずあの長大な(極めてまとまりの悪い)作品に妹なんか付け足して大丈夫なのか、という点。
次にスチームパンクの要素が入るということですが、私はそもそもスチームパンクモノ、オモシロかった試しがないので相性が心配、の二点でしたが杞憂でした。

ドストエフスキーを「我が前任者」と呼ぶ著者は、物語の時間軸を詳細に検討し、丁寧に推理を組み立てる手際がまずはお見事。
感心したのは単なる殺人事件の犯人捜しだけでなく、アリョーシャと交流したまま尻切れトンボのような終わり方をした子供たちの集団(中心になる子供がいましたね)とか、ゾシマ長老に奇跡を願いに来た足の不自由な少女リーザ。
ドミートリーに侮辱されて可哀想だった退役軍人の娘(覚えてます?)まで出て来てストーリーを支える。
さらにはあの「悪魔」も出てくるし、大審問官の行方も語られるというスケールは大したモノだと思いました。
何より読みやすく短いしね(笑

そうなると気になるのは原典であるカラマーゾフの兄弟を読んでないとダメなのかと言いことでしょうが、この小説の中でコンパクトに手際良くストーリーが説明されているので大丈夫です。
ただ読んでいれば、物語が進む度に、そうそうそうだったなあ、と盛り上がれること確実。
なにせ長大な作品だった故、つきあった時間も長く、その分登場人物への親しみは深いでしょう。

この作品をより楽しむためにも、人類の偉大なる芸術遺産を堪能するためにも、一石二鳥、年末年始のお休みは、いっそ前任者の作品「カラマーゾフの兄弟」も読んでしまえと意気込むのも悪くないかもしれません。

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December 08, 2012

このミステリーがすごい!2013年版@ミステリー、凋落は止まるのか? 買った本

仕事が終わった後、買いに行ってまいりました。
このムックを買うことが、かつては年末最高の楽しみだったのですが、萌え系アニメが好きになり、安室奈美恵が現れて、すっかり存在感が薄くなってしまいました。
なんだかミステリー自体に飽きている感じもあってね。
中一の頃から続く、我が最長の、そして最大の趣味だったんだけど・・・

20キロほど離れた大型書店への足には116iを選択。
寒いのでガレージからボクスター出すがの面倒。
それにしても普段は走行5キロ半径の使い方。
たまに長距離(私にとっては20キロは長距離のうち)走るとエンジンの感触が気持ち良くなってきて快楽の極み。
ああ、このクルマ、好きだ。
サイズもエンジンも、俺にピッタリ合っている。

で、到着した後、まずは「このミス」を買ってコーヒーショップにいったん引き揚げ、選んだのは
64〈ロクヨン〉横山秀夫@警察物は普段、読まないんですが、横山秀夫には「動機」「半落ち」で驚かされているんで、敬意を表して購入です。
カラマーゾフの妹 高野文緒@亀山訳で読み返したカラマーゾフ。
続編、期待しています。
ルパンの恋 モーリス・ルブラン@まさかモーリス・ルブランの新作を読めるとはね。読むしかないでしょう。
LAヴァイス トマス・ピンチョン@ピンチョンで傑作ミステリーなら1冊で二度美味しいだろうということです。

本日はこんな処、
以上、読了後読むとしたら解錠師@スティーヴ・ハミルトン 猫間地獄のわらべ歌@幡大介 なんてとこですね。

それから読了した楽園のカンヴァスはアート好きなら必読の傑作、とお知らせしておきます。

ミステリーじゃないけど他に買ったのは
ファスト&スロー ダニエル・カーネマン@今更ダニエル・カーネマンか、という気もするんだけど、池田信夫がそんなに褒めるなら買おう、で購入

スタンフォードの自分を変える教室 ケニー・マクゴニカル@立ち読みした限りでは、ホンマかいな、という疑惑捨てきれないが一応購入

買った後、どっかに寄って何か食べていこうかな、と思いつつ、自宅に電話したらやっぱり帰るのが一番、という気になって家路につきました。
街はすっかり師走の風情ですねえ。

シャンタラムが入ってないんだな。
そりゃ自伝小説と銘打ってありますが、冒険譚として並はずれた傑作なのは確かだよね。
こういう小説が無視されているから、「このミス」自体の信頼がなくなるんだよな。

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September 27, 2012

無理(下)奥田英朗@実際、登場人物の気持ちは分かる

一気読みで下巻も読了ですが、群像劇の主人公たちは、期待したほど絡みませんでした。

それでも終始、小説に惹きこまれたのは、全員の気持ちが分かるからです。
離婚した公務員の友則。
東京の大学を受験し、この街から逃れようとする史恵。
老人相手のインチキ商売営業マン、裕也。
スーパーの保安員の妙子。
市議会議員で社長の順一。
そりゃ勤務時間中に、買春する公務員は悪いし、老人相手にあこぎな商売をする裕也は完全に犯罪者だ。
秘書からクラブのママにいたるまで女を造り、汚職を癒着した土建業者と進める順一も悪徳政治家だ。
保安院の妙子もなにやら歪んでいるし、受験生の史恵にも若者らしいエゴがある。
でも読んでいて感じるのは、人間ってこんな境遇で、こんな環境にいて、ああいった状況なら、こんなことをしてしまうこと、あるんじゃないかなあ、という共有感情だ。

友則は一所懸命仕事をしようとした挙句にパチンコ屋駐車場の秘密を知ってしまった。
知ったらどうでしょう?
ああいうことをやらないと言える男性いますかね?

裕也のやっていることは言い訳の効かない詐欺だが、あんな社長の元、ああいう街に住んでいたら、やっぱり頑張っちゃうんじゃないかな。
終盤に見せた先輩後輩の友情は泣けるものでした。

保安員の妙子は結局、優しい娘だったじゃん。
ラスト、軽自動車の中の独白は気の毒だったな。
でも分かる。
このはかなさね。
私も同感。

順一議員件社長の運命は一番ドラマティックでした。
自分は精一杯悪いことしているのに、近視眼的な正義について、つぶやくセリフもまた正しいという、人の世の、人間の一筋縄ではいかないとこですね。
こういう視線の深さが小説の深みになります。

一番気の毒だったのは受験生の史恵で、彼女だけは落ち度がないよね。
「東京、いいですよね。毎日、お祭りみたいで@アニメ、アナザーの委員長」
そう、あんな街でくすぶった生活を送っていたら東京に憧れるのは、非常に真っ当な願望だと思う。

この小説は、脇役もみんな非常にビビットで、土建屋の薮田兄弟、社長の亀山、先輩の柴田、山本順一の息子と娘にいたるまで、全員が生きていた。
奥田英朗は力量のある作家だと分かったので、また読みます。
今、美術書と微積分の本を読みだしたので、何時になるかは分からないけどね。

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September 22, 2012

無理(上)奥田英朗@吐息も汗も臭い立つ生々しさ

寂れていく地方の小都市で、暗澹たる人生にあがく5人の群像劇です。

特筆すべきは奥田英朗の筆力で、描かれる登場人物の生々しさが半端ではない。
登場人物のしたたる汗は臭いたち、ストレスに高ぶる心臓の鼓動まで聴こえてくるようで、うん、この作家は直木賞の栄誉に浴したのではなく、直木賞の権威を高めた側の一員であろう、という水準ですね。

物語は冒頭から終始一貫ともかく暗い。
舞台となる地方都市から、背景となる天候から、登場人物の境遇から、否応なく巻き込まれる出来事まで、一切の光明はないのですが、読むのを止めることの出来ない不思議は、作家奥田英朗の技量故でしょう。

仕様もない人間に起こる、つくづくと嫌な出来事。
それなのに、ああこの感じ、分かるなあ、と思いながら読んでいると、さらに酷い出来事が起こる。
その時、読者はこの小説の題名を悟るのです。
「無理」と(笑

でもこの疲弊と逼塞の息苦しさは、今の日本の一断面を確実に描ききってはいますよね。
光に向かって飛ぶのは虫だけじゃない。
でもその光はホントウの救いなのか?
あるいは身を焼き尽くす偽りの炎なのか?
あがき続ける5人を見守るうちにそんなことも考えました。

読みだしたら止められなくなり、道を歩きながら、真剣にお話しを聞かなければならない場所でも本を手放すこと出来ず。

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August 26, 2012

ビブリア古書堂の事件手帖 三上延@萌え狙いではない本物のミステリー

最初にこの本を見たのは某大型書店で、「売れています」というポップの下にありました。
表紙を見ただけで安易な萌え狙いだろうと判断し、こういうのは嫌だなあ、と。なんだもかんでも少女風のイラストを付けるという風潮は安易である、と嘆息したのですが、それ以降の評判が高いので購入。
一読、驚きました。

四話の短編からなるのですが、どのストーリーも練り込まれて非常に良く出来ていている。
題材が思いのほか深刻ですが、消化不良もあざとさもないですね。
ヒロインの描写のみ、ちょっと萌えへの意識が過剰な感じですが、推理の過程に不自然な感じはなく、読み進むにつれ、キャラクターとしての魅力も出てくる。
語り役の男性も、脇のキャラクターも良く書けていました。
安易な萌え狙いのミステリーかと思ったら、高水準の日常系ミステリーである、という結論ですね。

この後、大部のノンフィクションに取り掛かっているので、次回作はまたいつかになると思いますが、読むのが楽しみです。
必ず読むと思います。
とりあえず、表紙を見てかえって手を引いている方がいるなら、おススメしておきます。

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