海外ミステリー

February 05, 2013

大いなる眠り:村上春樹訳 レイモンド・チャンドラー@「現代の都会」が生み出したヒーロー像。その淵源は1939年

村上春樹訳のレイモンド・チャンドラー作品も四冊目です。
これはその長編デビュー作ですが、正直、春樹訳チャンドラー作品、最大の読み処となる、文章に宿るリリシズムという点では過去の3作品に劣るモノです。

ただこの作品は、この後、映画や小説、日本のアニメに至るまで、無数のフォロワー生んだ「偉大なるマーロウ@都会のダークサイドを歩く、シニカルで優しい孤高の騎士」誕生を告げるモノであり、ル・モンド、タイムの評価を待つまでもなく、ミステリー小説マニアなら抑えておく作品ですね。

双葉十三郎訳でも読んでいたのですが、今回読んでみて「大いなる眠り(the big sleep)」という題名が凄く、腑に落ちたよ。

あいかわらず素晴らしいのが「あとがき」で、以下フィクションに対する評価基準としてと今後も参考になると思える言葉を(個人的に書き換えて)備忘録
1)なんらかの過剰さを欠いた「名作」がいったいどこにあろうか
2)「すべてはロジカルに解決されているけれど、話としてはそんなに面白くない」小説より「うまく筋の通らない部分も散見されるものの、話としてはやたらと面白い」という小説の方が遥かに魅力的
3)現実離れした物語が「寓話」なら、それは「神話」にまで昇華されている。
「神話」と「寓話」の違いは何か?
寓話は形象の組み替えというレベルで完結しているが、神話は人の心の「元型」に結びついている。頭で理解することを超えて、心をすっぽりとあてはめる。理解は必要とされていないのが大きな違いだ。
元型は時代を超え、地域を超え、言葉を超えて集合的に機能する資格を与えられる。
4)我々は誰しも自由に憧れる。しかし自由であるためには心身共にタフでなくてはならない。孤独に耐え、ことあるごとに厳しい判断を下し、多くのトラブルを一人で背負い込まなくてはならない。すべての人がタフになれるわけではなく、多くの人はどこかの時点で保護を必要とし、頼ることのできる組織を必要とする。
5)「ジャンル」というのはその固有の形式性によって、作品の幅を限定する。
しかしチャンドラーはそのパターンを逆手にとり、形式性の中に強靭な文体をぐいぐいと詰め込むことによって、その形式をある処まで「脱構築」することに成功した。
最後までジャンルに固執しながら、その作品がジャンルを超えて機能しているのはそのためである。
マーラーが交響曲に対して行ったことに相通じるものがある。

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January 20, 2013

ルパン、最後の恋 モーリス・ルブラン@コンプリート癖がないなら他を推奨

スポーツもダメ、音楽もダメ、勉強だって大したことない私が、人生で初めて抱いた自分でも出来そうな望み。
それが世界のミステリー史を彩った著名作品は全部読む、ということでした。
当然、モーリス・ルブランのルパンシリーズも、全巻読破したのですが、大変オモシロかった。
ルパン物とホームズ物は、有名なだけでなく、ホントに楽しい上質の読み物でした。
そうなると未発表作であるこの最終作は読まない訳にはいかないだろう、ということですが、正直ルブランの息子が発表をさせなかったのが分かる出来です。

最後の解説にあるように、まだまだ文章は完成の中途であり、膨らみがなく、話そのものもルパンが明智小五郎なのか?彼らは少年探偵団なのか、というストーリーで、スリルもサスペンスもトリックも特になくて・・・

私のように著名作品コンプリートにこだわらないなら、もっと楽しい作品沢山ありますね。

ま、批判だけでもなんなので、ルブランに敬意を表するため、印象に残ったルパンのセリフを以下紹介
「一番大事な武器、何よりも勝る武器、それは冷静でいることだ。完璧な鎧で身を固めているように落ち着き払っていれば、敵のほうが慌てだす。攻撃したいのだが、反撃が恐ろしい。攻撃する前から反撃の方が大きいような気がしてしまうのだ。どこから来るのだろう。どんなふうにやるんだろう、とね。
とはいえ正しい方法で精神を鍛え上げるには何十年もかかる。フランスの教育は愚かしい。鋼のように冷徹で、斧のように切れ味のよい強靭な精神の持ち主を造らなければならないのに、感受性ばかりを養っているんだから」

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February 09, 2012

アンダーワールドUSA(下)ジェイムズ・エルロイ@豊穣なる暗黒はより成熟を遂げ華を開く

オモシロかったです。
齢60歳を超えたエルロイですが、毒に満ちたその作品は衰えるどころか、より成熟し、描かれる暗黒は、色彩をいや増して鮮やかでした。

今回、久々の新作を読んで感じたのは、ともかくこの人の小説はカッコイイんだ、ってことです。
ブツ切りの文章なんですが、ひょいと描かれる街角には詩情がよぎり、悪行をなしながらも苦しみのたうつ人物像にも、ふと神の赦しの兆が訪れる。
それがカッコイイ。
一見、とっつき難い印象だからこそ、その魅力に触れた瞬間、読者は、特権的な世界に入れたような気になれる。
音楽にしろ、映画にしろ、小説にしろ、絵画にしろ、分かりやすくてcoolな作品ってないでしょ。
本当にカッコイイモノって、どっか敷居が高いんだよ。

思い浮かんだ仮説1:エルロイはチャンドラーの後継者ではないのか?
甘いlyricalな文章が売りで、その主人公の行動原理は騎士道的な美意識が元になっているチャンドラーと、歴史の裏側で、血まみれの地獄巡りをするエルロイの登場人物たち。
真反対の印象だし、そもそもエルロイはハードボイルド界のドストエフスキーじゃないの、ということですが、案外coolな読み物としては、通底するものがあるんじゃないかな。
変わったのはチャンドラーの時代のcoolと、現代のcoolだけなんだ、というのが私の結論です。

ゾンビ・ゾーンなんてベタな章名つけても、内容がさまになっているのは流石の力量としか言えないし、ハイチでブードゥを材料に、こんな展開の話を書いて、なお読ませる作家は他にいないよ。

感動的だったのは第六部同志ジョーンで、今までのストーリーを振り返る形で、舞台裏の事情が描かれる。
不思議なのは、出来事としてよりリアルに描かれた箇所を読んでいた時より、何気ないはずの事情説明で、その物語の苛烈さが伝わってくること。
自分の中にも、読んでいるだけだったのに、トラウマが形成されていたのかな、と思えたのは新鮮な読書体験だった。

もう凡庸な娯楽小説では物足りない。
本当にcoolなカッコイイ小説が読みたいと思っている人がいたら特におススメだ。
今、現役で今世紀の後半になってもなお評価されているだろう作家を二人上げろ、と言われたら私ならキングとエルロイだね。

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January 13, 2012

アンダーワールドUSA上 ジェイムズ・エルロイ@飛び込めばcoolな1品

ジェイムズ・エルロイの小説を買う時はいつも少しだけ思い切りがいる。
彼の文体は親しみやすいとは言い難いし、次から次へと新たな登場人物が出てきては、違う話をし始める。
その世界に入るまでが大変な作家なのだ。
もし上下二巻のハードカバーを購入しても、まったく入り込めなかったらモッタイないなあ、という気持ちのハードルがある。
新刊が出ていることは知っていても、ネットでは買えない作家だ。

でも実際に書店で手に取ってみれば、いきなりA・E・ハウスマンの文章から、
「肉は動かずとも、血はさまよう。
息はいつまでも止めておけない。
目覚めよ、若者。旅が終われば、
眠る時間は充分にあるのだから。」
なんてある。もう買うしかない。

実際「THENあのとき」と書かれた小節から始まるストーリーは、軽快に走りだし、引き込まれる。
ただいつものようにデモーニッシュな黒い手ごたえが立ちあがってこない。
これは失敗かなあ、さすがのエルロイもついに老いたか、と思って100p位。
まあ「アメリカ文学界の狂犬」最後の大仕事かもしれないんだから、少しツマラナクても付き合うか、とアキラメかけたあたりから、雰囲気が良くなってエルロイワールド没入。

で、今回、読んでみてエルロイの魅力がついに分かった。
エルロイにはみんな、狂気だの暗黒だのというけど、結局、この人の小説はカッコイイのだ!
ぶつ切りの文体も無愛想なカッコ良さがあるし、登場人物もカッコイイ。
過剰な言い回しがないのに、詩的な余韻が残り、絶対に安っぽくしないぞ、子供だましにはしないぞ、という矜持がある。
いわゆるCoolってことだな。
結局、音楽も小説も、最後の判断基準はカッコイイか悪いか、ってことだ。
ジェイムズ・エルロイはカッコイイ。
これが結論。


ps
この作品は暗黒のLA4部作を完成させたエルロイの次の連作長編モノ。
アンダーワールドシリーズの最終作となるものです。
この前にはアメリカン・デス・トリップがあり、その前にはアメリカン・タブロイドがあるんですが、タブロイドはもう新刊じゃ買えないんですね。
エルロイが初めて、というなら古本でもタブロイドを買ってからがイイと思う。

そこまで言うなら、その前に暗黒のLA4部作を読むともっとオモシロイけどね。
そうなるとブラック・ダリア、が最初ということになる。
1冊だけなら「ホワイト・ジャズ」が至高。
と思ったら「ホワイト・ジャズ」も新刊じゃ買えないのか!
でも古本で安かったら買いだよこの本は。

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February 26, 2011

リトル・シスター レイモンド・チャンドラー/村上春樹訳@青豆は梅安由来ではなかった

村上春樹によるレイモンド・チャンドラー作品の翻訳3作目です。
ミステリー史上に残る「さよなら、愛しい人」「ロング・グッドバイ」に比べると、この本の知名度、劣りますが、出来もその程度なのが残念です。

導入部は順調で、その後も部分部分、読ませる文章はあるんですが、全体の構成が未整理で、中盤には読むのが辛い部分もあります。
事件の全貌が明らかになっていく終盤は勢いが復活するのですが、村上訳のチャンドラーを手に取るなら他の作品からが良いでしょう。

それを読み終えてなおアメリカ文学への興味が尽きないなら、フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」かカポーティの「ティファニーで朝食を」をおススメしたいですね。
以上の作品を読み終えてなお、というなら良いと思います。

この作品で注目したのは、青豆さんの殺しの技が藤枝梅安由来でなかったことかな(笑
この本の原著を村上春樹さんが読んだのは随分前だと思うのですが、その記憶が熟成されて、後の1Q84のキャラクターに結実した、と思うと胸熱ですね。
海外の作家を読む込むことで、文体も磨かれたのだ、とも感じます。

今回は微妙な評価ですが、それでもかつて読んだ清水俊二訳よりは遥かにイイです。
MGMで映画化されたおりの写真がカバーに使われている清水訳の「かわいい女」が手元にあるんで、読み比べました。
本当は懐かしい、と言いたいんですが、読んだ記憶まったくありません(笑
それにしても、こんな本まで読んでいたんだな。
自分の青春時代は、暇だったんだなあ、と思いますね。
↓コレは文句のない傑作です

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January 12, 2011

ビッグ・ノーウェア(下)ジェイムズ・エルロイ@鼬という暗喩、ダドリー・スミスの大きな影

集積回路におけるムーアの法則を思わせるのが、フィクションにおける残酷描写の暴走ぶりです。
特に映画はVFXの飛躍的な進歩によって、ショッキングシーンの歯止めが無くなった感があります。
そんなフィクションに親しんでいる我々ですから、今さらいくら暗黒シリーズと言っても、20年以上前の小説に過度の刺激はないだろう、と思ったんですが、なんの。
後半の盛り上がりぶりは、人間性の奈落に向って、読者の襟首掴んで暴力的に覗かせるような迫力です。

巧いなあ、と感じたのが、鼬の使い方で、その凶暴な生態の描写が非常に巧み暗喩となって小説全体の基調低音となっている。

最終章でのアメリカン・ヒーロー物(というかアンチ・ヒーローですが)的な終劇のさせかたは、伝統芸も出来るんだぜ、という芸域の広さを感じさせますね。

ダドリー・スミスの悪魔的な造詣が冴え渡り、このキャラクターは、もっと世に知られても良いのでないか、と感じました。
デカクて強くて凶暴で悪賢く、自らの信念と欲望だけに忠実な悪魔。
アメリカではフォロワーとかあるんでしょうか?
ちょっと知りたいですね。

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December 28, 2010

ビッグ・ノーウェア(上)ジェイムズ・エルロイ@魅力は暗黒だけじゃない

19世紀のロシアから20世紀のアメリカに転生したドストエフスキー。
ジェイムズ・エルロイは、暗黒と狂気を描く独創の天才作家です。

いわゆる「革新性という美点で、不適切という欠点を覆せるのは稀である」という一般論をあざ笑うかの如く、「ホワイト・ジャズ」や「アメリカン・タブロイド」では驚きの文体で小説世界をひっくり返して見せました。

この作品はLA暗黒史と名付けられた4部作シリーズの2作目。
一作目の「ブラック・ダリア」よりはこなれていながら、最終作の「ホワイト・ジャズ」よりはずっと普通の文体という一冊です
映画化もされた「L.A.コンフィデンシャル」の前を描いている作品ですが、原作の魅力はコッチじゃないかな。
キム・ベイシンガーの役処がないから、映画化はされず知名度は劣るけどね。

エルロイ作品、というどこか物々しい評価にめげず、読みだせば冒頭から剣呑がムードの漂う年明けは午前零時の描写で、一気に物語に引き込まれます。

読み進めればストーリーもキャラクターも丁寧に描かれて、意外なほど親切な造り。
翻訳ミステリーにありがちな、この人誰だっけ状態には陥りにくい、と思う。
というか、このシリーズの読者なら、おなじみの登場人物が出てくるんだけどね。彼らがみんな濃いんですよ。
このシリーズが好きになりそうなら、最初の「ブラック・ダリア」から読むとイイかもですが、ブラック・ダリアは個人的にちょっと読みにくかったから、コレを読んだ後に戻る変則打法も可だと思う。

本物の作家だけが持つ迫力は別格の味わいで、優れたミステリーは時間を経ても色あせないという証明をしている1冊です。

ps
最近はちょっとアニメのDVDに偏り過ぎていたので、年末年始は本を読もうと思っています。
今はこれの下巻とル・クレジオの短編集、薔薇のイコノロジー、カスパロフさんの著書を取り揃えております。
どうなることやら。

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August 26, 2010

フレンチ警部と毒蛇の謎 FWクロフツ @倒叙物だけど、ラストは鮮やか

リアリズムと鉄壁のアリバイ崩しを描き、ミステリー史上に大きな足跡を残したFWクロフツ。
その黄金期を代表する作家の最後の未訳作かつ倒叙物、と言われると、かつて白熱するような思いで「クロイドン発12時30分」を読んだ身としては手に取らないわけには行きません。

読めば確かに現代の作品と比べるとスピード感に劣り、犯人が善人過ぎる、と感じられるかもしれませんが、普通の男性が少しづつ道を踏み外し、犯罪に手を染めて行く過程は極めてスリリングであり、犯行後に悩み苦しむさまは、サイコがデフォルトになった今だと逆に新鮮なくらいです。

全編を通じてクロフツ流儀の描写は落ち着いて楽しめ、その古き良き英国流儀の香りは、クラシック・ミステリに親しんできたファンには、独特の心地良さがあるのではないでしょうか。
さらにラスト1p、倒叙物にも関わらず、非常に鮮やかな幕切れが待っています。
単なるトリックを超えて、人間への視点が逆転する深みのあるサプライズ・エンディングだったと思います。

それでもこの作品、少し地味な印象は確かなので、今回は個人的に強い思い入れのあるコッチをオススメ

とてつもない大傑作。
中学時代に読んで、あまりのオモシロさに気が狂いそうになった逸品です。

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December 24, 2009

バッド・モンキーズ マット・ラフ@私にとってのミステリーの衰退

海外編で「このミス4位」、「文春10位」を獲得した作品です。

内容は殺人の罪で逮捕された女性の語る話。
彼女が言うには自分は「バッド・モンキーズ」という組織の一員で、世界にはびこる悪を殲滅するのが仕事と言う・・・果たしてそれは狂気の中での妄想なのか、驚くべき真相があるのか、という処が読み所になるわけです。

小説にも地道にリアリティを追求した物から、夢物語まで色々あるわけですが、これはいわゆる大風呂敷小説です。
とんでもない設定、展開を繰り出して読者を煙に巻き、話を飛躍させて楽しませるのですが、肝心なのは最後の着地。
無茶な話をどうまとめるか?が知恵の出しどころで、その結果如何によって評価が定まります。
巧くやられたと爽快感があれば著者の勝ちですし、なんだこりゃ、になれば負け。

著者のマット・ラフはアメリカでは有名なカルト作家だそうで、期待を大いに膨らませて手に取りましたがダメでした。

冒頭から序盤に掛けては現実にはあり得ない設定が次々に繰り出され、その場面場面に笑い何処あり、驚きありで、これはオモシロイと思ったのですが、途中から失速。
失速の理由は、マンネリズムです。
話自体は進むのですが、設定の同じようなモノが続きすぎる。
もう分かったから、と飽きてしまいました。
それでもラストはスゴイのかとなんとか最後まで読んだのですが・・・


うーーーーん、最近、ミステリーが面白くない・・・どうしたんだろう?(謎
いわゆる文学を読んでいる時の方がワクワクするんだよな・・・かつてはなかったなあ、そんなことは。
ミステリー自体が停滞しているのか、私のミステリー感性が鈍っているのか?
世界の為には私の感性が鈍っていただけ、って方であって欲しいですけどね。
という訳で年末読書のオススメは

本書でなくコッチにしておきます。
カポーティはツマラナイと思っている方。
村上訳は詩情豊かですよ。

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September 01, 2008

神は銃弾       ボストン・テラン

「このミス」1位で文庫発売、と手にしやすい条件の本だったのですが、読んでいませんでした。
その理由は、「神は銃弾」という題名が、あまりに見も蓋もない気がしたからです。

ところがこの題名の由来を聞くと著者は
「神は頭にまっすぐに向かう銃弾である。死ねば、その瞬間から人は楽になる」
という言葉を聞きなるほど、良い題名だと思いなおしました。
先日読んだ村上春樹の本に、冬を迎える街で死んだ小鳥が、何物かから開放されたような表情で死んでいる、という一節があり、なんとなく納得した覚えがあったのです。
生きる上で困難のない人はなく、生は、それだけの重荷を背負っているのは確かでしょう。

さてこの本、読む前に巻末の解説を読んだのですが、悪人が、あのハンニバル・レクターのパンク青年版のようだ、とある。
これは楽しみだ、と思ったのですが、結果はまったく比較にならないものでした。

Dr.レクターが何故あれほどのカリスマ性を持ちえたか、というと、T・ハリスとA・ホプキンスのコラボから生み出されたあのキャラクターは、確かに一般の生活には受け入れがたい猛毒そのものでも、真に優れた芸術が、その根底に毒を含むように、フィクションとしてなら、凡俗で卑しい人間像を徹底して破壊してみせる超然たる輝きがあるからです。
結局、現実には成立しない背反性を成り立たせたのが魅力なんですね。
この小説のサイラスは、単なる異常者ですよね。
厳然たる美学を持つレクターとはモノが違います。

もう一人、主人公を助けるジャンキー女性のキャラクターも秀逸とありましたが、こちらは、まあ認めても良いです。
確かに彼女の行動原理は「ハードボイルド」そのもので、捨て身の信条には、グッとくる場面ありましたね。

結局、オススメか、というと微妙ですね。
この本、実際にも600p弱と長いのですが、ボストン・テランの比喩や言い回し、あまり私の好みじゃありませんでした・・・客観的にも巧みだとは思えず、文章とストーリーの流れを阻害しているような気がします。
だから余計に長さを感じさせてしまう。

まあ二作目は読まないな・・・
どうも食欲をそそらない記事でスミマセンでした。
代わりにコッチを、おススメします。
特にフィレンツェ編はもう最高です。

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