エッセイ

March 03, 2014

ワセダ三畳青春記 高野秀行@東京にも異境はあるが、生還出来るかどうかは

「謎の独立国家ソマリランド」が非常に面白かったので、著者の青春記というこの本も購入です。
時代はバブル真っ盛りの1989年から世紀の移る2000年までの11年間。
日本が繁栄に酔い、崩れていったその期間、早稲田大学探検部だった著者は、偽りの繁栄に目もくれず、大学の正門から徒歩五分の木造二階建て古アパートで暮らすのですが、さすがブラックホークがダウンするソマリア奥地への旅を敢行する著者。
すでに大学時代から並ではない。
周囲にも並とは思えない人々が集散しては、多くの事件が巻き起こる。
著者は辺境に行き、辺境を語る辺境作家だ、ということですが、なんの。
この本を読んでいると、はるか辺境まで行かなくっても東京にいたって生活へ向かう態度次第で充分異境になる、ということですね。
ただ生還出来るかどかは才覚次第だ、ということが後半ちょっと漏れてきて、この辺りの苦みも悪くなかった。

読んでいて好感度なのは、笑いっぱなしのエピソードに嫌味がないこと。
この手の豪快バンカラエピソード本って、時々自分の無茶ぶりを誇ったり、強者だもんね臭がある時あるでしょう。
ひたすら大人しく真面目一筋の生活を送っている一般市民としては、それが鼻に付く時あるんです。
こっちだって別にこんな退屈な生活、したくてしいている訳ではない。
身過ぎ世過ぎを立てる為。
才がないのを自覚しているから真面目一方にやっている訳で、放埓な生活を偉ぶられるのは心外なんですが、高野さんの本にはそういう嫌味な部分が、まったくないんだよね。
だから終始楽しく読んでいられる。
後半、悩みだす処も心情も伝わる処があったし、ラスト、幕切れのエピソードは、中々美しく感動的だった。
すっかり気に入ったのでまた一冊買ってみます。

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January 27, 2014

自助論 S・スマイルズ@てらいのない理想論!人生の指針に

自助論、という題名にピンと来なかったのですが、良い本だ、と紹介されていたので購入して読んでいた処、上げられている例があまりにも古い!
次から次へとみんな古い!
おいおい、コレ何時出版された本なの、と後書きをめくってビックリ!
なんと1858年!に「西国立志編」という題名で出版され、福沢諭吉の「学問のすすめ」と並んで明治の青年たちのベストセラーになった一冊なのでした!
しかし1858年ってなんだよ、という話ですが、文章に関してなら現代語訳されているから大丈夫です。
そして内容は、なんでも甘々になってしまった今の時代に、どこまでも厳しくストイックで、かえって新鮮です。

著者は英国人で、当時の英国国民には、こういう自助の精神があったから七つの海を制したのだ、とされていますし、明治の時代に100万部も売れるような素地があったから、日本は抜群の勢いで近代化を成し遂げたんだろう、とも解釈出来ますね。
個人的に刺さった発言では、
「人間は、読書でなく労働によって自己を完成させる。つまり人間を向上させるのは文学ではなく生活であり、学問でなく行動であり、伝記でなく人間性なのである」なんて言葉です。
私は本を読むのとても好きです。
どちらかというと、働くより本でも読んで暮らしたい、
イイじゃないか、読書は高尚な趣味だろう、他人に迷惑も掛けないし、金も掛からない、なんて思っているとこがあったんで、見事にぶん殴られた感覚ですね。
そう、働くことに比べれば、読書なんで娯楽に過ぎない。
本だけ読んで訳知り顔になったって、そんなことで人間は練磨されることはないのだ。

「安楽で贅沢三昧の生活は、苦難を乗り越える力を与えてくれない。貧苦は決して不幸ではない。苦しみは人を立ち上がらせ、社会との戦いに駆り立てる。
人間の優劣はどれだけ精一杯努力してきたかで決まる。骨身を惜しまず働く以外に、自分を磨き知性を向上させ、ビジネスを成功させる道はない」
当たり前と言えば当たり前の、なんの新鮮味のない話だけど、この本に書かれていると、なんだか深く納得出来る。
著者が本気でそう信じているからだろうな。

明治の青年たちはこういう本を読みながら、激動期にある日本の中で、人生の困難と万一文字に切り結んだんだろうな、なんて思いを馳せると、時代を超えた共感がありました。

ps1
この本が置いてあるのを見て「自助論!」と言って驚いていた長女に、「良い本だぞ」と言った処、自分も読んでいると笑っていました。
意気込みだけは感心であって、親として嬉しかった。

ps2
文庫本もあるけど、こういう本は単行本で買った方がイイです。
教科書の副読本にしてイイんじゃないかな。
仕事で疲れた後に読むと、大変なのは自分だけではないのだ、と思いだせてくれてとても良かったです。

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December 13, 2012

現実を視よ 柳井正@ユニクロと柳井さんが好きでも嫌いでも

先日、某所に行ったおり、時間より早く到着してしまい、ローソンで時間調整。
伊藤園のけいおんフィギュア付お茶などを見つくろい、購入するも、まだ時間に余裕があったので、雑誌売り場のスタンドから手に取った1冊でした。
ま、こんなことでもないと、この手の本は読まないんだけどね。

立ち読みで、ともかく著者から伝わってくる熱に惹かれたのですが、私はそもそもユニクロ好きではない。
最初にロードサイドにお店を発見し、その売り場の新鮮さと、製品の鮮やかさ。
何より値段の信じ難いほどの安さに、カートイッパイに商品を詰め込んだのも1回きり。
なんだか冷静になってみるとそれほどでもなくてね。
ま、お値段考えれば丈夫だし、お値打ちなんですが、日本では安物のイメージが定着しちゃったでしょ。名前も変だと感じてるんだよ。
ジル・サンダーとのコラボ製品も買ったけど酷かったよね。

でもこの本で主張されている日本への危機意識には相当部分、同感出来る。
思い切ったモノ言いに、少し驚くこともあるんですが、それは私のレベルと柳井さんとの差なんでしょう。
このレベルの人だから、この位厳しいことも言える。

完全にそうだよなあ、と思えるのは、管直人の掲げた「最少不幸社会」への解釈とかですね。
「消えた年金問題」で、民間では当たり前の帳簿付けさえ出来ないのが役所であり、さらに誰も責任追及されない実状とか、地域経済へ貢献している企業へ政治家と役人はもっと敬意を持て!なんて処は非常に分かる。
日本での役人は、あくまで「お上」
お白洲を上から見下ろす「認可業」だよね。
今、読んでいる別の本でも、検察官が、「中小企業が100万社潰れても我々検察は関係ない」とか言っている本ですが、いや、検察官の旦那方、関係大ありだから。
中小企業100万社潰れたら、あんたがたが威張った後に食べる飯なくなります。
ま、これは検事様だから口にもしたんだろうけど、みんなこんなものだよね。

政治家と役人は、国民のサーバントとしての心得を「中二病でも恋がしたい」を観て、学んだ方がイイ(笑
・・・あ、ウソでもスミマセン

おかしな論理もあるし、主張に矛盾も感じるんですが、グローバル企業を一代に作り上げた著者だからこそまさに視える。
その上で言いたいことがこの内容なら、やはり日本は相当に危ないんじゃないか?と思えますね。
今の日本を観る一つの見方として、ユニクロも柳井さんも好きでなくても立ち読み位ならしてみてもイイかも、です。

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April 26, 2012

にっぽん虫の眼紀行(中国人青年が見た「日本の心」)毛丹青@漢詩の詩情あるエッセイ集

現、神戸国際大学の教授である毛丹青先生が、副題通り中国から留学生として来日した頃に、みつめ感じた日本へのエッセイです。
最初に圧倒されるのがその日本語の巧みさ・・・なんつーか、頭脳のレベルの差を見せつけられるようで、ちょっと悲しいです(笑
結局、外国語で書くにしろ、その素養は元の言語能力が出るのであるなあ、と感じいるしかない。

一読者としての楽しみは、文章を読んでいるとなんとなく漢詩の趣きがあることですね。
それも日本風に漢文読みした漢詩です。
中国人が日本に来て、その風土に親しみ、日本語を学んで書く文章と、古くから中国で読まれた漢詩を、日本人が解釈した漢文読み漢詩が似ているのは、互いの感覚がその根底にあるのだから当然と言えば当然かもしれないけれど、感慨深いと言えば言える。

奥さんの描写が楽しい「イワナ」、ドイツ人青年との邂逅が印象的な「東京帰途」、終電の意外なエピソードと最後のオチが笑える「最終電車」やっぱり奥さんが可愛い「座禅と風鈴」、ホンマかいなというレベルの不思議な話「夜桜」、風景描写が美しい「落桜抄」、日本人の民度への敬意が滲む「盲導犬」
みな優れたエッセイが持つ短編小説の味わいがあります。
文革だなんだで、中国人の伝統的な感性も死に絶えたか、と不安になる事もあるものですが、この人の中では詩情は死んでない。

著者の若き日の写真、私はどうもアニメで似た人を知っているような気になったんですが・・・

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October 25, 2011

ブラック・スワン上ナシーム・ニコラス・タレブ@ベキ分布の話を超えた、未知の未知への洞察

非常な話題となり、この手の本としては異例の売上を記録しましたが、私の見る目は冷ややかでした。
不確実性の問題って、経済物理学の発見したベキ分布のことでしょう。
世界は線形でなく、破断によって激変する。
その確率分散は、正規分布(ベル型カーブ、ガウス分布)に沿わず、極端なロングテールが出現する、ということなら、もう新鮮な話題とは思えませんでしたし、やたらと売れているのもオモシロくない(笑

ブラック・スワンなんて思わせぶりなこと言わなくても、知っているよ、と思っていたんですが、話題にする人もいなくなったので読んでみました。

結果、再読本認定です!
この本で語られていたのは、ベキ分布という観点を超えた、「未知の未知」についてでした!
この著者の類まれなる点は、読者に安易な解答を与えない処。
それでも読ませる力ですね。
話題の持って行き方と、語り口が絶妙で、読者はついていかざる得ない。
安易な解答を与えないのは、むしろ知識(=プラトン化:事象を消毒してしまうこと)こそが不確実性の温床となる、という主張なので、当然なんですが、実際に本を書いている身で実行できるのは、並大抵の力量じゃないよね。

学校秀才とデブのトニーの話を、インテリジェンスの本質論までに持っていった箇所は、著者の面目躍如でしょう。
それから論理の行き帰りの誤認ですね。
可能性がある、と示す証拠はない≠可能性はない、と示す証拠がある
です。
いつの間にか取り違えるよね。
人類はストーリーに弱く、後付けのheuristicに陥るのも本能、と断定されるといっそ清々しい。
そうか。
本能なら仕方ないな、と思わず、本能なんだから、常に自分も警戒し、誰か偉い人(=何も分かってない人)の解釈に納得しない。
楽をしないで頭を使う、考え抜くということですね。
そういうことが凄く良くわかる。

不確実性を本当に理解しているのは軍関係者だ、とか、カジノに関する驚くべき逸話は本当に興味深かったです。
でも下巻を読む前に、村上隆さんの本を読みます。
一変に読み切るのが惜しい。

ps
作家イェフゲニア・クラスノヴァについては、後にボルヘス的書評を書きたいと思います。

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June 15, 2011

村上ソングス 村上春樹@歌は参考にならなくても、文章だけで楽しめる

村上春樹さんが、ジャズの名曲を中心に、歌詞を訳し、一文を添えた1冊です。

村上さんは、この本以外にも音楽について語った本、何冊か出していますが、正直、趣味はまったく合いません。
村上春樹監修のCDまで買いましたが、ピンとこなかった。

それでも懲りずにこんな本を買うのは、文章が好きだからです。
語られる比喩の美しさ。
心の奥底に眠っている秘密を言い当てられるような指摘などは、介在する音楽が好みでなくても普遍的な響きを持って感動が伝わってくる。

例えば
「歳を重ねるにつれて、若いときには開いていたいくつもの扉が閉じられていくし、その多くには、もう終わった、と記されている。それらの扉が開くことはおそらく二度とあるまい。それはもちろん悲しく切ないことだ。しかし不思議なことなのだが・・・失ってきたもの記憶が、今となっては逆に僕という人間を底から温めてくれているのだ」

「自動車とは、ろくでもない町を抜け出し、ここではないどこか、へ行くための手段だった。しかし脱出は容易ではない。結局のところ、どこに行っても、どこまで車を走らせても、そこにはやはり似たような人生が待ち受けているだけなのだ。」
こんな文章、中々読めない。
軽妙にして洒脱であり、時に深い真実を照らしてくれる文章なんですね。

まあ、音楽の好みが合わなくても、文学の分野では、フィッツジェラルドやカポーティ、レイモンド・チャンドラーの翻訳で、趣味の範囲を広げてくれた村上春樹さん。
今後もご活躍を期待しています。

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March 20, 2011

トリエステの坂道 須賀敦子@イタリア名画のような絶品の小説のような

御存知のない方に須賀敦子とは何者か、と問われれば、
「随筆家として究極の存在の一人です」と答えるでしょう。
そしてその作品世界は、随筆を超えた須賀敦子だけが書きえる世界を作り出す、とも付け加えます。

品格のある文章で語られる哀愁と詩情は、いわゆるエッセイ、随筆という範疇をはるかに超えて、自らの周囲の家族を語りながら私小説とも思えず、達するのは完全に独自の境地としかいえません。
それも全編傑作といえる出来で、一つの作品集のすべてで、これほど高い水準を維持している作家は、そうそう思い当りません。

12編の作品に様々な人々が登場しますが、須賀敦子の筆にかかれば全員が、イタリア名画の登場人物。
読んでいると美しい絵が浮かんできて、境遇の辛さや気持ちが伝わってきて、須賀はフェリーニかピエトロ・ジェルミか、という演出が冴え渡ります。
TVより読書で、節電に御協力を、ということで、是非どうぞ。

「古いハスのタネ」/叙情だけでない桁はすれの教養人でもあったという備忘録
詩の起源は、共同体が神あるいは神々に捧げた祈りにあると言われている。
13世紀にアッシジのフランチェスコが作った「太陽の讃歌」はイタリア文学史の冒頭である。
汎神論的なこの作品は、伝統的な聖書のレトリックをまさに離れようとしていた。

ルターのプロティスタンティズムは、それまで共同体のものであった祈りを個のものにしようとした人たちの選択だった。
こうして宗教も共同体から個人の物となっていく@16世紀のドイツ

祈りには共同体の祈りと、個人がひそやかに神と対話する祈りがある。
共同体の祈りが文学と分かち合ったのは、どちらもが言葉による表現という点だ。共同体にとどまるかぎり、祈りは魂を暗闇にとじこめようとしない。
個人の祈りは、神秘体験に至ろうとして恍惚の文法を探り、その点では詩に似ているが、究極には光があると信じている。共同体の祈りも散文も、飛翔したい気持ちを抑えて、人間と一緒に地上に留まろうとする。
個の祈りの闇の深遠を、古代人は知っていたのだろう。

共同体によって唱和されることがなくなったとき、祈りは特定のリズムも韻も形式も必要としなくなるから、韻文を捨て、散文が主流を占めるようになる。散文は論理を離れるわけにはいかないから、人々はそのことに疲れ果て、祈りの代用品として呪文を探し出す。

信仰が個人的であり、宗教は共同体的であるといいきった私たちは、ほんとうになにも失わないのだろうか。

ダンテの描いた神秘の薔薇の白光に照らされ、歌にみちた幸福は、人類がかつて想像しえた最高の歓喜の表現であった。
すべてがキリスト教に括られていたようなイタリア中世で、「神曲」は、すでに言葉の世界が、別の山として一人歩きを始めたことを物語っている。

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January 03, 2011

村上春樹‘THE SCRAP’懐かしの一九八〇年代@今の方が巧い。上達してんだな

作家、村上春樹は長編小説、短編小説、翻訳、エッセイ、ノンフィクションと多方面にわたり活躍していますが、個人的に一番好きなカテゴリーはエッセイです。
小説より気軽に読めるし、村上春樹のエッセイには読者をリラックスさせる独特の味わいがあるんですね。
それはどこか上質のリゾート地でくつろいでいるような感覚に似ているんです。

この本は1980年代に、アメリカの雑誌「エスクァイヤ」「ニューヨーカー」「ライフ」・・・他、などを読んだ村上さんが、そのつど感じたことをネタにサラサラと書いた1-2pの文章が集められています。
私が買ったのは去年で、一種の80年代回顧モノと思ったんですが(今、アマゾンで探したんですが、私の買った茶色の表紙のがなくなっている)、実は20年以上前に連載していた文章でした。
だから若き日の村上春樹のエッセイ、ってことになるんだけど、驚くべきことに、今の方がずっとオモシロイ。
年をとってからのエッセイの方が、味わいは深く、触発されるイマジネーションはより多彩で鮮やかなんです。
春樹村上は年を追うごとに文章、上達しているんだな、と実感しました。

最近の作品に比べれば落ちるけど、充分、オモシロイ本ではあります。
なんか微妙な評価ですが。

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October 24, 2010

それいぬ 正しい乙女になるために 獄本野ばら@美意識の提案

下妻物語の登場人物の行動原理が、利害を超えた美意識にあるのを読み「これはハードボイルド小説」だなと思ったのですが、どうやら正しかったようです。

この本は獄本さんがデビューするきっかけとなったエッセイに書き下ろしが加えられた1冊で、独特の美意識がよく書き表されています。

知らないと誤解を招くのが「乙女」という言葉で、これは少女、ということでありません。
男性も美意識の上で獄本さんの言う「乙女」であるのですが、乙女であることは、同性愛好者や女装趣味、ということとは全く違います。
その美意識は、
1)孤独を恐れない。馴れ合わない。
2)エレガント、品性を保つ。卑しさを軽蔑する
3)耽美的である。功利性を嫌う
4)道徳的である。内的規範を厳守する
5)ロマンチストでナルシストである。
なんていうことです。
ただこうして書き出してでもまったく意味不明というか、獄本さんの書く文章の魅力は伝わりませんね・・・まさに美しい女性を解剖したあげく、臓器ごとに紹介されるが如し。もうちょっと穏便に書くならレントゲン写真を見せられる如しでしょうか。

やはりこの本の魅力は、立ち読みででも読んでもらう他ないので、本屋に行ったら、J・コーネル展に寄せてp27、とか、有元利夫-メビウスのロンドp111、と題された章など読んで見てください。
美術趣味の方なら、見事な出来栄えと感じられると思います。
美術趣味の無い方は、この本には最初から無縁でしょう。

笑えるのが読みたければ、恋愛に優しいサイコロジーp85、美しき道徳p87などがイイです。このエッセイ、基本はお笑い路線ですが、その影には確固たる価値観がしっかりと通っているのが魅力です。

以下、オモシロかった文章を参考までに(ブログ用に改変、省略してあります)
1)真のロマンチズムとは甘美な夢をソリッドな精神で纏うことなのです。
2)美しさとは孤独であること、言葉もなく音楽もなく、悦びも悲しみも寄せつけぬ純粋な質量としての唯美@宝石を語る

3)19世紀に終焉せし真に豪奢な観念の服飾を、残忍と放蕩のエレガンスを、勇気をもって継承、復権なさいました。貧しき機能主義に甘んじることを美徳と勘違いした二十世紀の倦怠を真っ向から軽蔑するものでした。次々と完璧なる虚像を布に託し、醜悪で退屈な現実を明確な意思を持ち糊塗していった希代のロマンチスト。最も正統かつラディカルな世界の救済者でした。バレンシアガのドレスはエレガントだが夢をみない。シャネルのエレガンスはドレスに夢を見ない。Diorのドレスは夢見るエレガンス@Christian Dior

4)宝石と香水は醜悪な欲望と共に栄え、その価値を増すのです。そこにはヒューマニズムへの軽やかなアンチテーゼがあります。貧しさに美が宿るものですか!美とは富より抽出されし特権的快楽。宝石と香水という二つの道化は、この民主主義の世において辛くも硬質な美への意識を喚起させてくれるのです。

5)文学も美術も思想も数式も美しければ全て正解。内容なんて必要ないのです。内面の美しささえあれば外見なんて構わないとい、という正論の何と傲慢なことよ。僕は自分の内面なんてとてもじゃないがさらけだせない。こんな醜悪なものをどうして人に見せられましょうか

6)「女性」のレプリカであると同時に「少年」のレプリカである「少女」という存在。乙女とは現実世界のイミテーション。美しさのみ取り出した、いびつでありながらもピュアなアンドロイド。

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October 03, 2010

下流志向 内田樹 @深い教養は勉強になるものの・・・

学びや労働から逃走する人々の出現という現象を深く読み解く文章は、教養書として極めて優れた1冊と思えますが、すべてを理論で割り切ろうとし過ぎで、処によっては牽強付会の感もありました。

社会の断層は、あくまで人が作るもの。
どこまでも不可解な物だというのが前提で、統一した理論で全部割り切れるものではない。
それを無理矢理割ろうとすると余りが出る、なんて感じです。

それでも教養として深い点は多々ありで、例えば、他人に敬意を向けたことのない人間が他人に敬意を向けられることはない。
人に尊敬を教えるには、「人を尊敬するとはどういうことか」を身をもって示せる人だけ、なんて言葉は、論語でも読んでる気になるほどです。
孤立している人にとって他者はすべて自己実現の妨害者だ、とか、文化的素養がない貧しい手持ちの価値観で、計量出来ないものが沢山ある世の中を計ろうとする愚かしさとかですね。
教育論として素晴らしい。

それでも内田先生の属する大学の教師集団に対しては甘いです。
モンスターペアレンツは論外でしょうが、いかなるレベルでも師として迎えよ、なんて言われてもね。厳しくするのは商業の理念だ、なんて言われてもさ・・・困るよね。

個人的に思うに、ニートの方々は、どんな贅沢よりも、寝るより楽はなかりけり。すっかり色あせて見える社会人、大人の生活よりも、逃げ切れれば勝ち、という価値観の人々なんでしょう。
ホントに仕事は辛いよね。
この辛さを合計すれば、あらゆる贅沢より優る。
フェラーリ? 沢山の女性? 高い酒? 贅沢な食事?
大したことないって。
それらを得るために働く苦痛の方が優るのは確かに正解。
何が贅沢と言って働かないことほど贅沢なことはない。
間違いじゃない。
だから病は深い。
結局弱い人々なんだけど、その負担はどうするのか?

結局、価値観の多様さや、許容範囲の広さが行き過ぎたことが生んだ病理だと思ってます。
でもそれじゃあ、本にならないものね。

現代の碩学の書なので、読めば勉強になります。
でもこの本、学びから逃走している人は読まないよね。
多分・・・
じゃあ、誰が読むのか、というと、学びから逃走していなくて、労働からも多分逃走していない人が読むと思う・・・こう考えるとなんか変だな

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