映画

February 07, 2012

ウォール・ストリート@オリバー・ストーンの名人芸を味わう

ボルカ―ルールやらバーゼル3の規制を控え、黄昏ているウォール街ですが、ドラマティックな映画の舞台には、まだまだ悪くないんじゃないでしょうか。
そうなると主人公は、「伝説のディーラー」でしょうか?
イイでしょう、映画なんだから、ヒーローが必要だ。
でもその描き方が、稚拙だと悲しいですよね。
ではどう描けば良いのか?
今回はオリバー・ストーンのこの作品から、その名人芸を書いていきたいと思います。
1)出所シーンのクルマの演出
ゴードン・ゲッコーが、他の囚人と出所してくるシーンでは、まずtaxiが他の囚人を出迎えます。
カメラが引いてゲッコーを撮るとリムジンが。すっと来る。
流石っすゲッコーさん、で終われば凡庸。
この後の外しですね。
そして終盤への伏線にもなっている構成が流石です。

2)突然始まる、唸るようなセリフの妙
地下鉄の中でゲッコーとジェイコブの話が女と金のことに及ぶとそれは、
「金は同じベットに寝てくれるぞ。そしてじっとオマエを見つめてくれる。金は眠らない女なんだ。」
なんて展開になります。
唸るようなセリフですね。
セリフが説明的でありきたりじゃダメなんです。

3)ウォール街の大物が集まる部屋のインテリアの凄さ&強欲社長の趣味はあの人と同じ。
銀行を清算に追い込む会議が開かれる部屋のインテリアには目を見張るものがあります。暗がりに沈むカーテンの光沢やソファの革の照り、を見てください。
また敵役になる強欲な投資銀行家の部屋に飾られる絵画の数々ですね。
ゴヤ、キース・へリング、ウォーホール、フランシス・ベーコン(私がパッと見た感じですけど)などなど。
後のメトロポリタン美術館でのパーティシーンも圧巻。
神は細部に宿るのです。
こういう処で、手を抜いてはダメ。
強欲社長の趣味がアート、というのはリチャード・ファルドがイメージでしょうか?皮肉も効いてますし、伏線にもなってます。
1つのシーンに多重な意味がある。
これが職人芸というものです。

4)若い二人が家を買いに行きますが、ついて来た不動産ブローカーの正体が明かされるまでの展開。
ビックリしたと思います。
こういう何気ないシーンに意味と意外性が込められると、客は飽きません。

5)金は日本から中国か
前作では市場が開くと同時に、「東京の連中が買ってくるぞ」、なんてセリフがありましたよね。
今回はひたすら中国の金が注目されています。
リーマン破綻も、中国から韓国が買い手の噂になっていました。
そういうセリフもありましたね。


こんな風に物語を紡いて行って、終盤、大落としが来る。
私はすっかりハメられました。
オリバー・ストーンは時にトリッキーに過ぎ、時事ネタと寝すぎる風もありますが、こうして観ると半端な手練れじゃないですよね。
見事な作品でした。

ps
オートバイで山道を競争シーンがありますが、路面に木の葉が落ちていて危険です。クルマなら気にしないで良い程度ですし、単車でもゆっくりツーリングならOKですが、映画のようにレースまがいに飛ばすなら、あの落葉はリスク・ファクターです。
どっかに吹き溜まっていたら、非常に危ない。
私ならあの環境では単車は飛ばしません。
クルマでも自重するな。

我が子を喰らうサトゥルヌスは誰のことか?
観れば分かりますが、今回、この絵画が特別なモティーフになっています。
一見、絵画をイッパイ集めていてもアートへの愛がないことが分かりますし、強欲が破滅することの隠喩にもなってます。
でも将来の世代を喰らうな、という教えは何処かの国にも言ってあげたくならないですか?

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September 10, 2009

譜めくりの女  @主人公メラニーは、フランス流解釈の綾波系キャラ

ピアニストへの夢を立たれた少女の復讐劇です。
話の造り自体はそれほどのモノではありませんが、能を始めとする日本文化に触発されたという監督のドゥニ・デルクールの演出とカメラは、音楽までが可能な限り排されて抑制されたなかでも復讐劇の緊張感に溢れ雰囲気タップリです。

相手の信頼を得ながら静かに計画を進めるデボラ・フランソワの謎めいた美しさは一見の価値ありでした。
D・フランソワ自身は、撮影当時、20歳前後だったはずですから美少女の範囲は少し超えた、でも大人の女というにはまだ未成熟な魅力が、ミステリアスな沈黙の中に巧みに醸し出されています。

途中、暗いベットルームからのシーンではアニメ雑誌をめくっているなどメラニーの造詣は、フランス人、ドゥニ・クレール流解釈の綾波レイだと思うのだけれど如何?

ps
観ているうちに、なんだか今は懐かしいカトリーヌ・アルレー(みんな知ってるかなあ)を思い出してしまった。
アルレー、好きだったなあ・・・イイ作家でした。
アマゾンにはまだ「わらの女」と「死の匂い」が売っているから興味が沸いた方はどうぞ。
フランス文化と日本文化って不思議な相性がありますよね。

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July 24, 2009

81/2@フェリーニ  :人生は(色々大変だけど)祭りだ。共に楽しもう!

フェデリコ・フェリーニ畢生の1品であり、映画史上に燦然と輝く傑作とされてますが、難解です。

一応のストーリーはありますが、無秩序に交錯する現実と幻想、欲望と悪夢の展開は、いわゆるストーリーを見る映画じゃないと思います。

ただ画面の美しさは比類がなく、仄めかされる色々なオブセッションと囁かれる恐怖と啓示には強く惹きつけられます。
夜の闇の中に組み上げられた「何か」はすでに目的を喪失して強い表象としての存在を黒々と表します。
光と影の中で強い沈黙を強いられる映像は、どこかジュルジュオ・デ・キリコの絵画を思い起しました。


ps
ワルキューレが「地獄の黙示録」だけじゃないんだ、ってことを知っておくためにも観て置いてイイんじゃないでしょうか?
これだけ無茶苦茶やっても感心して観ていられる映像が撮れるのは、この人とデビッド・リンチくらい?
食事をしながら2日掛けてぶつ切りで観終えたんですが、こういう映画はうんと時間を取って何回も見たいですね。
出来れば映画鑑賞のサークルか何かに入って課題作品としてさ。
幾らでも解釈の仕様がありそうで、論じる快感が尽きない気がします。

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June 27, 2009

【ネタバレせぬよう】 ヱヴァンゲリオン新劇場版:破 【アドバイス】

本日6時まで仕事、明日の日曜も仕事で午後法事と勉強会(鬱・・・何かイイコトないかいな、という訳で行って来ました。

シネコンに着くと目の前を綾波レイが歩いています。脇のファースト・フード店ではアスカがポテト食べてる・・・さすがに初日、お祭りムードです。

結論から先に書きますと、映画は非常にオモシロかったです。
という訳で、以下、慎重にネタバレにならぬよう、要素別に書いていきます。

【ストーリー】
非常に練り込まれていました。
アッと驚く展開多々であり、戦闘シーン、学園ドラマ風の箇所などもバランス良く配合されています。
テレビ版のシーンやセリフもモザイクのように配されて庵野さん、相当考えたんじゃないでしょうか。


【使徒のデザイン】
もうね、最高でした。
前回はラミエルに驚かされただけでしたが、今回は初っ端から凄い!
これはシュルレアリズムの画家が書いたか、と思うような美しい変化続々で、世界の追随をまったく許さない出来でしょう。
この映画以降、モダン・アート風のクリーチャーはみんな後追いってことでよろしく。


【綾波レイちゃん好きは集まれ】(←オッサンの書いてる文章とは思えん)
今回の公開はあんまり萌えてませんでした。
公開前のグッツも良くないしさ(前回は綾波のマウスパット、最高だったよね)
変は新キャラは出てくるし・・・アスカも登場でしょ。
ただでさえ少ないレイちゃんの出番は、あんの(庵野)かよ?
と問い詰めたいと思っていたんですが、もう出まくり!
しかもセリフまで沢山ある。
当然可愛い。
「ATフィールド全開」もあります・・・このシーンは泣けるんだ。


【新キャラも良かった】
わざとらしく感じていた眼鏡キャラの子も良かったです。
さくらとかあむちゃんとか明るいキャラも好きなんだけどさ(←オッサンが書いているかと思うと果てしなくキモイ)、やっぱりエヴァのキャラは病んでいてナンボなんじゃないの、と思っていたんですが杞憂でした。
アスカも以前より良かったな・・・


あー、オモシロかったです。
来々週になるけど今度は妻とも行くよ。
クルマは無理筋かな、と思ったけど、360スパイダーで行った。
駐車場は大変だったけど、天気が良かったからね。
帰りはドラフォで夜空を走った。
心残りはニンニクラーメンチャーシュー入りを食べた店でビール飲めなかっただけ・・・ガーレジに着いてから幌が一瞬上がらないので焦った。
故障じゃないことを願う・・・

ps
何とは題名言わないけど、上映前にアメリカ映画の宣伝していたんだけど、もうダサイことこの上ない。
今どきミサイルの映像を売りにしているって何なんでしょうか?
「アメリカ映画と日本アニメ、なぜ差がついた慢心、環境の違い」
って感じ。

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March 11, 2009

アカデミー賞を獲る脚本術   リンダ・シーガー@映画を見る上での補助線として

昨今はアメリカをバカにするのが流行ですが、映画ならやっぱり大した物なんです。
ハリウッド映画はクダラナイ、と決め付ける方は単にクダラナイ映画しか見てないだけ。
特に優れているのは脚本術で、これは一つの完成形、様式を確立したと言って過言ではありません。

この本はそのハリウッド流脚本術を詳細に解説した1冊です。
私はどんな対象でも、その基本構造を考えるのが好きで、映画を見ながら良く、パターン化(基本構造をパターンで理解しようとするのは数学的なアプローチです)を試みるのですが、この本はその構造とパターンを理解する上での補助線の引き方が見事です。
脚本術から解明される、「映画での感動や驚きの構造」が、解剖されるがごとく切り分けられ、白日の元に晒されていく過程は非常にスリリングでした。

テーマごとに、具体的な作品例を示しながら、解説されるのですが、著名な作品でも、ここが弱い、なんて指摘された場所はうなずく事多々で、積年のモヤモヤが氷解します。


ただデビッド・リンチ作品が不出来、不完全な例として挙げられていますが、これだけは「脚本原理主義」的な見方で、疑問ですね。
確かに「マルホランド・ドライブ」の話の構造は破綻している。
でもあの映画のレベルは非常に高く、まさに天才だけが表現できる世界を実現しました。
これはどういうことかと喩えて云えば、ムチャなフォームでも天才的に強かったボクサーみたいなモノだと思うのです。
ハメドやロイ坊みたいなスタイルでは誰も戦えなかったけど、彼らの全盛期は目を見張るほど素晴らしかった。
でも普通の人間には真似出来ない。
教則本にも載ってない。
ただ神は気紛れで、そうで存在も稀に生み出すんですよね。
それが芸術やスポーツのディオニソス的な一面です。

ps
「悪魔の最大のトリックは、自分が存在しないと信じこませることだ」
こんなセリフあの映画にあったっけ?

ps
素晴らしいセリフの中では、言葉は歌い、響き合う。
的確な言葉を選び、正しい音符を見つけ出すことだ。
優れたセリフの中では、言葉と映像は一つになり、ストーリーや人物、テーマについて深い情報を与えてくれる。
ツマラナイ脚本では、リズム感のないセリフが多く、陳腐で単刀直入すぎて言外の意味がなく、言葉が歌ってない@「効果的なセリフをつくる」より・・・うーーん、お見事!
この解説の一文は確かに歌ってますね。

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February 15, 2009

ニコライとアレクサンドラ  /映画の見方は色々で

理系の進学コースだったので、世界史は履修してない。
だからどうも疎い。

ロマノフ王朝って何?
って聞かれても思いだすのは、皇女アナスタシアとか、旅順で戦ったよな、とか結局、レーニンに殺されたんでしょ、とかおぼつかない。
「ロマノフ家の金塊@ガーフィールド」って本も読んだけど、イマイチだったなあ、なんて記憶しかない。
それらなら世界史の教科書でしっかり勉強すれば良いんだけど、メンドクサイ。

そういう人にこの映画はオススメです。
1971年の映画だけにVFXとかなくて、その分、アカデミー美術監督賞と衣装デザイン賞を取ったリアル映像の部分が充実しているので、登場人物とか背景描写がともかく真実味があり、まさに歴史の目撃者になった気分。
問題は189分と長大なことですが、まあ歴史の勉強だと思ってぶつ切りに見ていけばよい。

ああ、やっぱりここで日本と戦ったのがつまずきだったねえ、とか、これが「血の日曜日事件」と呼ばれるわけかあとか、おおラスプーチン登場、第一次大戦、やってるんですねえ、戦争の背後には、こうやって他国からも外交使節が来て、色々あるわけだとか、ボリシェビキ台頭でレーニン登場、などなど、歴史上の知った顔が映画の中で良く繋がって理解が深まった気になります。
ちょっとNHKの「その時、歴史は動いた@豪華版」を見ているような気分ですね。

のんびり、何回にも分けて観てください。

ロシア近代史の勉強には悪くないですよ。
映画の利用法も色々あるってことです。

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December 12, 2008

【見逃すな!】サバイバル・アイランド【ダイナマイト・バディ!】

新妻とクルージングに行ったら船火事で孤島に流されました。ただし若い船員付き・・・
いわゆるロビンソン・クルーソー・カテゴリーで、黒い味わいからさらに細かく分ければ「蝿の王」系統でしょうか。

でも、この映画、まず脚本がダメです。
私は「話の構造堪能主義者」で、コッチの思惑を巧く裏切ってくれたり、思いもかけない展開にもっていってくれたりする作品が好きなんですが、下手です。
思惑は裏切られますが、キレがない。印象的なセリフもない。
このキャラクターはいらないなぁ、結局どうなるのよ、と思うのですがグダグダです。
最後の味わいも悪いのですが、この展開にもっていくなら世界に冠たるハリウッドの脚本家たるもの、もう一工夫二工夫、整理が圧倒的に足りません。

それから流された孤島はまさに1流のプライベート・ビーチもかくやで、どこまでも白く輝く砂浜が続き、紺碧の海が栄えるのですが、南の島のリーゾトホテルに何度か滞在したことのある方ならやはりオイオイとツッコミたくなるのではないでしょうか。

朝マッタリ起きてずーーーっと、パラソルの下で読書、体があまりに火照るときのみ海に浸かる、なんて省エネで楽しんでいても、昼食にランチを楽しむとなんとなくグッタリして部屋に帰ると寝てしまうことが多いと思います。
結局日差しって人間をスゴク疲れさせるモノなんですよね。
海や白浜からの反射があるから、パラソルの下でも同じ。

南の島のビーチリゾートは「美しき地獄」なんです。
写真や映像で見ているときは最高!
実際行っても一時楽しむだけなら最高!
でも一日はいられない。生活しようとしたらそこは地獄!
しかも飲み水がやしの木の果汁だけなんてさ。
南の島に慣れた人ほどあり得ないと感じてしまうのではないでしょうか?

さて欠点ばかりあげつらいましたが、じゃあこの映画、観るもんじゃないのか、と申しますと逆です。
特に男性は必見でしょう!
ともかく主演のケリー・ブルックが最高のダイナマイト・ボディを全編、惜しげもなく晒してくれます。
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極小の白いビキニがこれほど似合う女優はいないでしょう。
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そしてこれしか着ない。
それがもう最高の最高の最高!

私は普段「綾波萌え」なんて書いてますが、レイちゃんは心の安らぎの対象。
憐憫と共感で、やっぱりいたすならこういう女性がイイですよね。

というわけで男性はみんな見ましょう!
女性は知りません。

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December 07, 2008

フォーガットン@佳作! こういう映画があるから手当たり次第が止められない

ブログに書いてないだけで、実は映画はかなり観ている。
劇場に行っている暇がないのでもっぱら自宅の55型のテレビでではあるが。
何時観ているかというと、朝食、昼食、夕食時とその後の休み時間に観る。
当然、食事の時間を2時間づつとるわけには行かないので、ぶつ切りである。
大型と言ってもテレビでぶつ切りに観るなんて観ているうちに入らないと云われればそれまでだが、地上波のテレビは見るに耐えないし、仕事に追われつつもフィクションを愛好する人間のせめてもの工夫だ。

それにオモシロイと思った映画はそれなりに襟を正して見直す。
でもそのほとんどはツマラナイ。
あんまりツマラナイものが続くと止めようかな、とも思うが、時にこんな小当たりが出るので止められない。

この映画は9歳になる一人息子を、飛行機事故で失った母親の話。
ショックを受けカウンセリングに通っているのだが、心の痛手は癒しきれず、息子の写真やビデオを見ては涙にくれている。
そんなある日、どうにも周囲の様子がおかしくなってくる。
やがて大事にしていた息子の写真がなくなる・・・
ビデオが空になる・・・
夫も精神科医も親しかった隣人も、あなたに息子なんていなかったって言い出す・・・
さてここまでなら、出来る限りのホラー、スリラー系の映画、小説を愛好する人間なら、どこぞで見飽きた話ではある。

だから勝負はここからで、観客はどんな突拍子のない話に持っていけるか?が期待になる。
この映画は充分及第点だ。

何より気に入ったのは、人を拉致する場面のアイデア!
イヤ、最初は訳が分からなかったんですが、映像をはっきり確認できたときは、怖かったですよ。
奇想天外でありながらあっても良いかなという映像にはビックリしました。
そして何故彼らが連れ去られ、主人公はOKだったのか、という辺りの説明も最後にちゃんと明かされます。

何者かの目的が、「そういうこと」なら確かに理屈は通っているよね。
主演のジュリアン・ムーアも好演していました。

それにしてもこの設定は怖いよね。

もし自分に起ったらどこまで粘れるだろう?
諦め速かったりしてね(笑
笑っている場合じゃないか(笑

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November 21, 2008

インベージョン@盗まれた街  我々はどこまで我々でいたいのか?という映画。

ジャック・フィニイの傑作「盗まれた街」が原作で、幾度も映画化されている作品です。

テーマは人の入れ替わり。
ある日、「私の夫が夫じゃなくなった」と言い出す妻は正気なのか?
それともそれはエイリアン?そっくりだけど何者なの?という怖さ。

表面は娯楽作品ですが、深いテーマだと思います。
今回主演のN・キッドマンは、自分の子供をエイリアン化されることから守り抜きますが、そりゃ皮膚が粘粘して感情を失くした虚ろな存在になんてなりたくない。

でももし自分の子供が不治の病でエイリアン・ウイルスを打たないと死んでしまう!
さらにそのウイルスは限られた人たちの奪い合い!なんてことになったらどうでしょう?
さらにさらにそのウイルスを打てば、不老長寿になり、病気や怪我とも無縁、体力は超人級で頭脳は明晰、天才に!そして人格まで神か仏のごとくになる!
なんてことになったらどうでしょう?

それでも人は人であることを選ぶでしょうか?
難病で今にも死にそう、苦悶にのたうつなんて人にも自分達の存在基盤が危うくなるからオマエラ打つな!って止めるでしょうか?

あいつ等病気が治るだけじゃなく、体力気力知力が劇的に上がって自分達が支配されてしまうのが怖いって、理屈を付けては、ダメって言うでしょうね。

でもエイリアン・ウイルスに感染したら能力が上がるだけでなく、感性、想像力まで上がって傑作芸術作品創造しまくり、表情は豊かで付き合えば魅了されずにはいられず、スポーツをやらせても夢のようなプレー続出、その上で大枚の収入はみんな慈善事業に寄付もしまくり、ってことになったらどうでしょう。

アル中でギャンブル中でDVの夫にウイルス打つと、豊かな人間性と高度な知性、真面目一筋になり家族をひたすら大切にするようになったらどうか?

この映画でも、人類がみんな我々の仲間になれば、世界から戦争がなくなり、暴力も貧困も根絶され、「ぶなの森における共生」が実現するということが語られます。
粘粘皮膚と気味の悪い表情が難点でしたが、これが克服されていたら、イラクで今日も87人爆死、という現実との均衡は危うくなりますかね?
どう思います?

優れた芸術はみな人の内面を救おうとしているわけですから、ある種の人格改変装置ですよね。
エイリアン・ウイルスには異論があっても、音楽や映画で平和と博愛を訴えるのは立派なことでしょう。
宗教ではどうでしょう?

ある日スゴイ教祖が出てきてみんなが信者になって平和と博愛の世界が実現したら・・・やっぱりちょっと怖いですよね。
特に自分がちっとも良いと思えなかったら・・・仲間外れで迫害されそうだ・・・でも幾ら批判しても鷹揚に認めてもらえたらいつか入信したりして・・・これもまた怖い・・・

結局人はどこまで影響を受け入れるのか?
ホントの自分って何なのか?

嫌、他の動物とこんなに違う知能を持つ人類って、はるかな過去に異星人に知能改変されていたりして・・・そしたらいまさらヴァージン守ってもしょうがないじゃん、って話もあり得る・・・色んなことを考えさせる原作で、この時期のSFって確かに凄かったんだよね。

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November 10, 2008

冷血@映画、原作T・カポーティ

作家T・カポーティが取材し小説化した一家4人殺人事件を、名匠リチャード・ブルックスが監督した1本です。

全編モノクロで撮られた映像は、暗闇に浮かびあがる大きな靴が剣呑な雰囲気を醸し異様な緊張感の中に始まります。

特筆すべきは犯罪者を演じる二人の主演俳優でしょう。
いわゆる無差別殺人者なんですが、サイコ・キラーってだけなら、昨今の映画では珍しくもない(笑
だけどこの二人、ホラー映画を見慣れた私でもホントウに怖かったです!
この映画はホラーじゃないって?
そうですね、確かに原作は現代アメリカ文学の傑作ですし、R・ブルックス自身もホラーという範疇では撮ってない。
でも人を殺すことをなんとも思わない連中が主人公って点ではホラー映画と被る処もある。
そのホラー映画のサイコキラーと一番違うところは、この二人、ちょっと乱暴なんだけど一見、普通なんですよ。
まったく他では異常のない、その普通さが怖い。
いかにも近くに、現実にいそうで(いたわけですけど)そのリアリティが怖い。
主演の二人、その辺を非常に巧く演じていました。

「2人の人格が溶け合い第三の人格が現れたんだろう」
刑事はそう結論づけるのですが、それが納得出来るところも怖い。
そう、人は何も伝説の悪霊が乗り移らなくても変異してしまうことがありますよね。
それが分かるだけに怖い。
ホラーの要素は「暗い森の中」でなく誰の心の中にもあるんじゃないの、と思える辺りが怖いです。

暗い光量の足りないライトで延々と走り続けるハイウェイの映像は、この後多くのフォロワーを生みだしましたね。

ラストのカットも切れ味良くて、さすがにR・ブルックス!
原作も著名ですし、観といて良い映画だと思います。

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