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May 11, 2008

須賀敦子全集第1巻  ミラノ霧の風景

文章を読む、ということの悦楽が、しみじみと味わえる珠玉の随筆集です。

著者の須賀敦子さんは、イタリアに渡り結婚され、翻訳者として活躍。
幾多の日本文学をイタリア語に翻訳、紹介し、帰国後はイタリア文学の日本語訳者としてピーコ・デラ・ミンドラ賞などを受賞。
61歳にして、この「ミラノ霧の風景」で初めての随筆集を出版すると、文壇の評価は
「すでに巨匠の風格だった」と評された方です。

住まわれた、或いは旅されたミラノ、ナポリ、ヴェネチアの描写の美しさには比類なき詩情があり、そこへ登場しては消えていく人物像は、みな神話的ともいえる普遍性を持ちます。

磨き抜かれた文章には、一つとして無駄な単語がなく、それは映画「アマデウス」でモーツアルトが語ったとされる「私の楽譜には必要なものしかない」という言葉を思い起すほど完璧な芸術であり、それを読むことのできる幸運に、今はただ感謝するのみです。

風采の上がらない、けれど素晴らしい知性の持ち主であり、根っからの善人だったアントニオへの優しい眼差しは忘れがたく、ヴェネチアの本質を、虚構化し劇場化した都市であり、仮面こそほんとうにこの町の顔である、と喝破する思索の深さには、ただ感嘆するのみです。

いつしか夢幻の中に読者を彷徨わせる文体は、どこかカミュの小説の描写を思わせ、またそれに匹敵するでしょう。


ps
この本は特に女性におススメします。
義母(妻の母親)が大のファンなのですが、世に溢れる「良い女」へのハウツー本よりこの本を1冊お読みになれば、読後、あなたの内面は充分に深く、真の知性と、研ぎ澄まされた感性の一端に触れた者だけが持つ輝きを得ると思います。

ちなみに表紙はジョルジョ・モランディ。
「永遠の静寂」と「瞑想」を何気ない静物画に塗りこめた究極の画家
の一人です。

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