硝子戸の中 夏目漱石
夏目漱石、最晩年の随筆です。
すでに死に至る病を得て、書斎に引き篭もりながら硝子戸越しに見る世間と、思い出の中に彷徨い出る心情が描かれます。
冒頭から寂寞たる調子であり、死の影は色濃く、なるほど一つの生命が消え行く過程とは、かくなるものか、という描写、心情がリアルです。
新聞に連載された随筆ですが、どこか弟子である内田百閒を思わせる一編もあり、そうすると、それが漱石の現実を写した随筆であるのか、創作の混入した掌編小説であるのか判然としなくなる・・・それが生きる力を失った病人故の幻想なのか、大名人の達しえた妙境からこぼれる何物かなのか・・・
随筆は次のように終わります。
「みんな連れ立って活動写真へ行ってしまった。家も心もひっそりとしたうちに、私は硝子戸を開け放って、静かな春の光に包まれながら、恍惚とこの稿を書き終えるのである。そうした後で、私は一寸肘を曲げて、この縁側に一眠り眠る積である。」
・・・まさに文豪ならではの、見事な終章です。
こんな随筆を読み終えると、せん無いことと思いながら、もし異次元、パラレルワールド、タイムスリップ、なんでも良いのですが、漱石を現代に連れてきたいですね。
縁側での一眠りから醒めた漱石に、今の日本を見せてやりたい。
今の時代なら胃病も治せるでしょう。
そしたらどんな小説を書いてくれるのでしょうか?
そんな小説、ゾクゾクするほど読みたいと思いませんか?
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