抗夫 夏目漱石
恵まれたぼんぼんが色恋沙汰から死を覚悟して出奔。
濃密な悪夢の中を彷徨います。
延々と続く松の木の林を抜け、どてらを着たポン引きに山、また山の中を引き回され、抗夫となるべく鉱山の長屋に連れ込まれ、脆弱な心は震え、虚弱な身体は萎え、半獣半人のような抗夫に嘲笑われ、やっと床につくとそこは南京虫の巣窟で、出される食べ物は南京米。
後半は明治時代の鉱山の中でまさに地獄巡りの様相です。
背を丸めてもぐりむ程度ならまだしも、身体ギリギリの坑道を抜け、底も知れぬ穴をはしごで降り、果てるとも知れぬ地底を水につかりながら彷徨います。
持っているのはカンテラ一つ。
それが雫に消されそうになれば闇に怯え、付いていれば酸欠を意識します。
268pの中篇ですが、漱石の凄みが横溢しています。
それは一貫して分厚く、得たいの知れぬ感触を読者へと尽きることなく提供します。
現実を乗り越えるほどの悪夢のりアリティ。
この矛盾を軽々と実現する漱石の力は、まさに「大自在の妙境」としかいいようのない絶後の表現力でしょう。
唐突ですが、みっしりと詰まった文章を読んでいるうちに、私は京極堂を思い起こしました。
このブログで京極夏彦を引いていただければ分ると思いますが、京極堂は現役作家では最もお気に入りの作家です。
彼の本を読むことは何よりの楽しみです。
でもこの286pは京極道の1000pに匹敵する、あるいは凌駕すると言い切ります。
それくらい凄い作家です。
もしこの記事を京極夏彦ファンの方が読んでいて漱石が未読ならぜひオススメ。
古くても良いもの。
それも絶品といってイイものがあることをの幸福を体験できると思います。
ps
個人的に夏目漱石を、日本文学史上最高の作家と認定します。
世界レベルでも充分戦えるでしょう。
格闘技じゃありませんが、漱石なら誰の挑戦でも受けられる。
真剣にそう思います。


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